07/06/2026
今年の春から、毎月第一土曜日になると画室の生徒たちを連れて写生に出かけています。
ある時はひっそりとした山里へ、またある時は広々とした田園へ。そして今週は、海に浮かぶ小さな島へ取材に行ってきました。
神島、伊勢湾の入口、三重県と愛知県の沖合に位置するこの小さな島の名を、地元の日本人でさえ知っている人はそう多くないかもしれません。しかし三島由紀夫の小説『潮騒』と聞けば、思い当たる方はずっと多いのではないでしょうか。
物語の中で、漁師の青年・新治と富豪の娘・初江が恋に落ちた海上の孤島。潮風を受けた白い壁にうっすらと塩の跡が残る「歌島」は、実は神島の旧称です。
1954年、29歳だった三島由紀夫はこの島を舞台に、絶え間なく響く潮騒を旋律のように織り込みながら、この純愛小説を書き上げました。『潮騒』には血なまぐさい悲劇も、鋭い刃もありません。あるのは海風と青春、そしてひたむきな恋心だけ。その瑞々しい物語は多くの人々に愛され、これまでに五度も映画化されています。
それから数十年。
漁村は今も変わらず漁村であり、神島もまた昔と変わらぬ神島のままです。
一日に一往復しかない定期船が、この島に静かな時間を残しているのでしょうか。陽光が路地に差し込み、潮風が曲がり角を吹き抜けるたび、まるで時間そのものが『潮騒』の世界に留まっているかのように感じられます。
青い空と海、素朴に連なる屋根と色彩豊かな壁。長年潮風にさらされてきた漁師たちの顔、港へと続く細い階段、遠くで光を反射する波頭。その一つひとつが、まるで丁寧に作り込まれたドラマの舞台装置のようで、思わず心を動かされました。
帰りの船の中で、生徒たちにこう話しました。
「この辺りには他にも美しい島がたくさんあって、瀬戸内海のようなアイランドホッピングの観光地になれるかもしれない。でも私は少しだけ身勝手に、この場所には今のままの素朴さを残していてほしいと思うんだ。」
なぜなら、ある場所が人を惹きつけるのは、何かが新しく加わったからではなく、何十年もの歳月を経てもなお、変わらずそこにあり続けるからなのかもしれないからです。
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